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大阪高等裁判所 平成元年(ラ)8号 決定

抗告人

加納基治

代理人弁護士

仲森久司

相手方

清和住宅株式会社

代表者代表取締役

藤岡董

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

2  当裁判所の判断

記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  大阪府中小企業信用保証協会は、昭和五九年七月一八日上妻輝也との間で同人所有の原決定添付物件目録記載の建物及びその敷地につき、第一造園土木株式会社(代表者上妻輝也)を債務者とする根抵当権設定契約(同月一九日根抵当権設定登記)を締結し、昭和六二年一月一九日大阪地方裁判所に競売申立をしたところ、同月二九日競売開始決定が、同年二月一日差押登記がなされ、相手方が同年一一月一日の売却決定により右物件を買受け、同月一六日売却代金を納付した。

(二)  上妻輝也は、昭和六二年八月頃、第一造園土木株式会社の倒産により本件建物から他へ引越したが、本件建物につき、同年九月一日付で上妻輝也と高島富棋との間で賃料月一万五〇〇〇円、保証金三〇〇万円、期間の定めなしとする建物賃貸借契約書が作成され、松山明が、本件不動産引渡命令申立後の昭和六三年一二月五日付で、上妻輝也から賃貸権限を与えられその代理人として右契約を締結し右保証金三〇〇万円を受領したという証明書を作成している。

その後、昭和六二年九月九日付で高島富棋と抗告人との間で、期間三年、賃料月一万円、右賃料三年前払済、保証金五五〇万円とする転貸借契約証書が作成され、高島富棋が右前払賃料と保証金を受領した旨の同日付の領収書を作成している。

本件建物には、昭和六二年九月一〇日頃から抗告人が表札を掲げて占有の表示をしており、その頃、抗告人が藤本工務店に依頼して屋根や浴室の修理をしている。

(三)  登記簿上、本件建物には、昭和六二年八月一〇日受付の園田久佐男の賃借権(短期)設定登記(原因同年五月三〇日)がされ、これが同年九月一〇日受付で抗告人に移転仮登記されている。又、同年八月二五日受付で松山明の賃借権(短期)設定仮登記がされ、これが同年九月一一日受付で高島富棋に移転仮登記されている。

上記認定事実によると、本件建物には、登記簿上抗告人と高島の賃借権(短期)設定仮登記が併存しており、その取得経路も(二)の契約書の内容とは相違している外、高島が抗告人に転貸した後に松山から賃借権(短期)設定仮登記の移転登記を受けるというのも不自然であり、又、高島から保証金を受領した旨の松山の証明書も本件不動産引渡命令申立後に作成されたもので、その信憑性に疑問がある上、その保証金の額も賃料額と比較すると異常に高額であり、更に、園田、松山、抗告人及び高島の賃借権設定に関する各登記がなされたのは第一造園土木株式会社が倒産した直後のことであり、松山や高島が本件建物を占有した形跡はないのであって、これらの事情に照して考えると、本件建物に対する高島の短期賃借権は、当初から用益を目的としたものではなく、適正な競売の執行を妨げるために取得したものと認める外はないから、民法第三九五条により保護されるべき短期賃借権には当らないとものというべきである。

そして、抗告人は、高島との間の転貸借契約に基づき、同人の賃借権を基礎として本件建物を占有するものであるから、高島が同条の保護を受け得ない以上、抗告人も同条により保護されるべき者には当らないものとする外はなく、又、抗告人が同条の保護を受け得ないとすれば、たとえ本件建物につき有益費等を支出したとしても、これについての留置権を主張して本件建物の引渡命令を阻止することはできないものというべきである。

そうすると、抗告人は民事執行法第八三条にいう「事件の記録上差押えの効力発生前から権限により占有している者でないと認められる不動産の占有者」であるというべきであって、引渡命令の相手方になるといわなければならない。

よって、原決定は相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官中川臣朗 裁判官緒賀恒雄 裁判官杉山正士)

別紙〈省略〉

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